広島地方裁判所 昭和24年(行)50号 判決
原告 山下寛治 外五十二名
被告 広島郵政局長
被告 中国電気通信局長
一、主 文
原告等の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の連帯負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、被告廣島郵政局長が昭和二十四年八月十一日並に同年九月十二日原告山下寛治外二十四名、被告中国電気通信局長が同日原告松森文人外二十二名に対してなした各免官処分はいずれもこれを取消す、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求めた。
三、事 実
原告等訴訟代理人は、その請求の原因として(一)原告等はいずれも別紙原告目録記載の通り郵政省及び電気通信省の從業員であつて全逓信労働組合の幹部であつた、(二)而して被告等はそれぞれ郵政大臣及び電気通信大臣より三級官、雇傭人等に対する任命権の委任をうけた者であつて、行政機関職員定員法(以下單に定員法と略称する)によつて行政機関の定員が定められ、昭和二十四年九月三十日迄に定員を超過する人員を整理する義務と権限を與えられたところ、原告等はいずれも昭和二十四年八月十二日並に同年九月十二日被告等によつて免職された、(三)然し右の処分は左記の理由によつて違法である。即ち(1)被告等はこの整理に便乘し前記組合の弱体化を企図し、組合の維持強化と組合員の地位向上のために献身的に労働運動をしてきた原告等を眞先に狙いうちに整理対象者に選んだのであるから、労働組合、労働運動の自由なる発展を保障するポツダム宣言、極東委員会の日本労働組合組織に関する十六原則、憲法第二十八條の規定に違反し、且つ又国家公務員法第九十八條第三項にも背馳する。定員法が労働運動を活溌になしたという理由を以てかゝる差別待遇を認めるものとせば、それは前記憲法の條文に違反し又同法第九十八條に牴触し、その効力はないのであるから定員法に基く今次整理といえどもかゝる処分を認める筈はないからである。(2)国家公務員の免職処分は所謂法規裁量処分であつて、今次の整理にあたつても、組合に公示された郵政大臣兼電気通信大臣の定める整理基準に覊束されるものであるが、その基準によれば技能、知識、肉体的適應性及び事業に対する協力の程度等公共事業職員としての必須要件を基礎として策定され、これが具体的適用に当つては業務に対する習熟及び勤務成績等をも勘案するものとなつているが被告等は右基準によれば罷免せらるべき理由の全然ない原告等を右基準によらないで免職したのであるから、被告等の本件処分は違法である。(四)よつてかかる違法な行政処分たる本件免職処分の取消を求めるため本訴提起に及んだと述べ、被告の主張に対し被告主張の如くかりに右処分が自由裁量処分だとしてもその基準に覊束されるものであると解するから全くの自由裁量処分とは云えず、基準に違反すればやはり違法な行政処分となると述べた。(証拠省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告等がそれぞれ郵政省及び電気通信省に勤務する從業員であつた事実、被告等が原告等の主張する如き行政機関であり定員法によつて昭和二十四年九月三十日までに之を超過する人員を整理する義務と権限を賦與されたこと及び原告等主張の日時に主張の如き者を免職したことは認めるがその余の原告主張事実はすべてこれを否認する。
今次の整理は定員法附則第三項国家公務員法第七十八條第四号に基いてなされた自由裁量処分であつて違法の問題を生ずる余地はないのである。もつとも被告等は原告主張の様に一應整理基準を全逓中国地連に対し発表したが右は郵政大臣兼電気通信大臣が定員過剩の人員整理の一應の規準を内示したものにすぎない故法的覊束力をもつものではない。又右処分は原告等の主張するように原告等が組合の拡大強化、組合員の地位向上のために組合活動に熱心の故を以て原告等組合主腦部を免職したのではなく原告主張の大臣の示した整理基準の精神に則りその枠内において各種の資料を蒐集調査し愼重審議の上、自己の自由な判断によつて最も適当と信ずるところに從つてなしたものであるから憲法第二十八條国家公務員法第九十八條第三項に違反しない。と述べた。(証拠省略)
四、理 由
原告等はいずれも郵政省及び電気通信省の從業員であり被告両名はそれぞれ郵政大臣及び電気通信大臣によつて原告主張の任命権の委任をうけた行政機関であつて定員法により昭和二十四年九月三十日迄に過剩人員を整理する義務と権限を與えられ昭和二十四年八月十二日並に同年九月十二日の二回にわたつて原告等を免職処分したことは当事者間に爭ないところである。
原告等は本件処分を所謂法規裁量処分であると主張するので、先づこの点について判断すると国家公務員の免職処分は国家公務員法第七十八條第一号乃至第三号の規定に基く場合は法規裁量処分であるが同條第四号の規定による場合は自由裁量処分であると解すべきところ、定員法による右処分は正しくこの後者の場合に該当するものと解するのを相当とするから自由裁量処分といわねばならぬ。然しながら自由裁量処分と雖も行政機関の勝手な処分をも許すべきでなく、やはりそこには一定の限界があるべきことは誠に原告所論の通りであつて、この限界をこえるときは違法な行政処分として取消訴訟の対象となりうるものである。本件の場合に原告主張の大臣内示の整理基準なるものは一應右限界を定めるものと解すべきであろうが、もし右処分が定員法に基く整理に藉口して労働組合運動を活溌に行い、組合の指導的立場にある者を右基準に全然該当しないのに罷免せんとするのであればこれは正に自由裁量処分の範囲を逸脱した違法な行政処分と称すべく取消しうるに至るわけであるが、被告等がかかる事由に基いて原告等を免職したことはこれを認めるに足る証拠は何も存在しない。
仍て原告等の被告等に対する本訴請求は理由がないのでこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十三條第一項本文に從い主文の如く判決する。
(裁判官 三宅芳郎 浅賀栄 加藤宏)
(別紙目録省略)